クラウド化が進む一方で、「設定ミス」や「権限管理の不備」による情報漏えいが増えています。
クラウドは便利ですが、使い方次第でリスクもあります。企業自身が責任をもってセキュリティを管理する必要があります。
この記事では、クラウド環境に潜むリスクと対策の基本、そして脆弱性診断による安全性の可視化方法をわかりやすく解説します。
継続的に守るしくみを実現するための参考として、クラウド診断を通じてセキュリティ強化を実現した企業も紹介します。
クラウドセキュリティとは、インターネット上のデータやシステムを守るしくみと運用のことです。適切な対策をしておかないと、情報漏えいや不正アクセスなどの重大なリスクにつながります。
総務省が行った「令和5年通信利用動向調査」によると、利用企業は年々増加し続けており、今や企業の約8割がクラウドサービスを利用する時代になりました。
しかし、利用が広がる一方で「クラウド事業者に任せておけば安全」という誤解も広まっています。
本来クラウドには、事業者と利用者の双方に管理責任がある「責任共有モデル」という考え方があり、利用企業側にもセキュリティ対策が求められます。
ところが、コロナ禍でクラウド導入が急速に進んだ結果、この前提を十分に理解しないまま利用を続ける企業も少なくありません。
その影響は、実際の事故としても表れており、2023年には国内自動車メーカーが約10年間にわたりクラウド設定を誤ったまま運用し、顧客情報約215万件を外部から閲覧可能な状態にしていた事例や、IT企業がGoogleドライブの公開設定ミスにより6年以上情報を露出させていた事例など、設定ミスによる情報漏えいが相次いでいます。
※参照:総務省「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン(第3版)」
前述のとおり、クラウドの安全性は事業者だけでなく、利用する企業側の管理にも大きく左右されます。では、企業は具体的にどのようなリスクに注意すべきなのでしょうか。
クラウドで発生するトラブルの多くは、たった一つの「設定の誤り」から始まります。主なリスクは次のとおりです。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| アクセス権限の誤設定 | 管理者権限の共有や削除漏れによる不正アクセスの危険性 |
| データ共有範囲の設定ミス | 公開制限を誤り、社外から情報が閲覧可能になる事態 |
| 無断導入システムの問題 | 個人や部署が独自判断で導入したサービスがセキュリティ管理の対象外となり、統制がきかなくなる状態 |
| 外部連携の弱点 | 外部サービスとの接続部分から侵入されるリスク |
| クラウド構成の不備 | ユーザー認証・権限管理の設定やネットワーク公開範囲の誤り |
実際に、クラウドにおける重大な事故の多くが利用者側の「設定ミス」によるものです(※1)。
情報セキュリティの専門機関も、クラウド設定ミスを含む「不注意による情報漏えい等の被害」を重大な脅威として警告しています(※2)。
こうしたリスクを定量的に把握するには、定期的な診断が欠かせません。
※1 情報処理推進機構(IPA)2023年7月公表報告書
※2 IPA「情報セキュリティ10大脅威2024(組織編)」
監修:増井さん
クラウドは「全部任せれば安全」というしくみではありません。契約時に責任共有モデルの範囲を確認し、自社の責任範囲を把握してください。具体的には、利用者側が担う設定やアクセス管理の項目を一覧にして、担当部署と責任者を決めることが挙げられます。これを運用ルールに落とし込むことで、設定ミスや権限の放置による事故を減らせる可能性があります。
クラウドのトラブルを防ぐには、どれか一つの対策だけでは足りません。
「技術」「運用」「診断」の3つをそろえて取り組むことが大切です。
| 項目 | 対策内容 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 技術 | 暗号化、ゼロトラスト、クラウド監視ツールを導入する | 外部からの不正アクセスや情報の盗み見を防ぐ |
| 運用 | 権限の整理(誰がどこまで操作できるか決める)、ログ確認、社員への教育 | 操作ミスや放置された権限によるトラブルを防ぐ |
| 診断 | 定期的な脆弱性チェックや設定の見直し | 気付きにくいリスクを早めに発見する |
クラウドは便利ですが、使い方や設定を変えるたびにリスクの内容も変わります。
例えば、新しいサービスを追加したり、外部のツールとつなげたりすると、そのぶん入り口や抜け道が増えることがあります。
そのため、一度チェックして終わりではなく、変化に合わせて何度も見直すことが重要です。特にクラウドでは、サービスを使っている途中で起こる「設定変更」が原因でトラブルになるケースが多く見られます。
だからこそ、安全チェックを特別な作業ではなく、“普段の仕事の一部”として組み込むことが、安全を守り続けるポイントです。
クラウドセキュリティの重要性やリスクは理解できても、「では、実際に何から始めればいいのか?」と悩む方も多いでしょう。
クラウドのセキュリティ対策をきちんと定着させるには、「準備 → 導入 → 運用 → 評価」の4つの段階に分けて進めることが大切です。ここでは、最初の準備段階でやるべきことを、実際の作業イメージとともに解説します。
自社のクラウド利用状況を「見える化」し、リスク箇所を把握します。
まずは、会社で使われているクラウドサービスをすべてリスト化します。知らないところで契約・利用されているサービス(シャドーIT)がないかも確認します。
チェック項目:
作業例:
部門ごとにヒアリングを実施し、表計算ソフトで一覧表を作成します。意外と「営業部が独自に契約していたツール」などが見つかることがあります。
次に、「誰が・どのデータに・どこからアクセスできるのか」を明確にします。権限の整理や、不要なアカウントの削除も含まれます。
チェック項目:
よくある失敗例:
すべてを一度に診断するのは困難です。個人情報を扱うシステムや外部公開サービスから優先的に実施しましょう。
| 優先度 | 対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 高 | 個人情報・機密情報を扱うシステム | 漏えい時の影響が大きい |
| 高 | 外部公開しているWebサービス | 攻撃者から狙われやすい |
| 中 | 社内システムとの連携部分 | 侵入経路になりうる |
| 低 | 完全に独立した開発環境 | 本番への影響が限定的 |
監修:増井さん
クラウド資産の棚卸を実施し、「量」を減らすことは効果的です。まずは「個人情報や機密情報の有無」「外部公開の可否」「連携箇所と相手」を分類し、リスクの高いものから権限の整理と診断を実施してください。実務では、CVSSなどを用いた技術的な深刻度と、業務への影響度(漏えい時の損害など)を用いて数値化し、優先度を決めると現場が動きやすくなります。
準備段階で「何がどこにあるのか」「どんなリスクがあるのか」が見えてきたら、次は実際に守るためのルールやしくみを整える段階です。
クラウドを安全に使うための社内ルールを作ります。専門的で難しいものではなく、「やっていいこと・やってはいけないこと」を明確にすることが目的です。
| 内容 | 目的 |
|---|---|
| クラウドサービスの利用ルール | 誰が契約・管理できるか、無断導入を防ぐ |
| 権限・アカウント管理のルール | 管理者・一般ユーザーの違いを明確にする |
| データの保存・共有ルール | 公開範囲や外部共有の方法を統一する |
| パスワード・多要素認証(MFA) | なりすましログインを防ぐ |
「誰が」「いつ」「何をしたか」の記録、パスワード以外の認証追加、データの暗号化を設定します。
ログ管理の設定:
二段階認証の設定:
暗号化設定:
日常的にセキュリティ状態をチェックし、問題を早期発見する体制を作ります。
設定したログを定期的に確認し、異常がないかチェックします。
| 頻度 | 確認項目 | 具体例 |
|---|---|---|
| 毎日 | 管理者権限での操作 | 深夜のログイン、大量のデータ取得 |
| 週次 | 新規ユーザー追加・権限変更 | 承認されていないアカウント作成 |
| 月次 | 全体的なアクセス傾向 | 通常と異なる国からのアクセス急増 |
よくある異常のサイン:
新機能追加やシステム変更時には、必ずセキュリティ確認を行います。
チェックリスト例:
3~6カ月に1回、または大きな変更後には必ず診断を実施します。
診断のタイミング:
発見された脆弱性に優先順位を付けて対応します。
| 優先度 | リスク レベル |
対応期限の目安 | 例 |
|---|---|---|---|
| 緊急 | 重大 | 即日~1週間 | 管理画面が認証なしでアクセス可能 |
| 高 | 高 | 2週間~1カ月 | 古いプログラムに既知の脆弱性 |
| 中 | 中 | 1~3カ月 | セキュリティ設定の不備 |
| 低 | 低 | 次回メンテナンス時 | 推奨設定との軽微な差異 |
対策実施後は必ず「本当に直ったか」を再診断で確認します。
再診断の流れ(一例):
診断結果と対応状況を組織全体で共有し、改善を続ける文化を作ります。
報告内容の例:
監修:増井さん
設定ミスが発生したとき、修正して終わりにしないことが重要です。再診断を実施するとともに、定期的なレビューや設定の点検、シャドーIT検出のための監査を運用に組み込みましょう。まずは「最小権限の原則」や「MFAの導入」といった基本について教育を実施するだけでも、クラウドを使うときの意識が変わることが期待できます。
理論やベストプラクティスを理解しても、実際にどう運用すればよいのか悩むことも多いでしょう。
ここでは、診断を定常プロセスとして組み込み、セキュリティ体制を強化した2社の取り組みを紹介します。それぞれの企業が直面した課題と、どのように克服したのかを見ていきましょう。
世界中に拠点を展開し、海外売上比率が50%を超えるグローバル製造業の企業様の事例です。DX推進を加速させる中、海外拠点でのセキュリティ事故がグループ全体のブランドに影響するという危機感から、グローバル全体でセキュリティ水準を統一することが課題となっていました。
課題
取り組み
成果
海外拠点を含む複数の開発環境を統一的に診断するには、「自動化と標準化」の両立が不可欠です。診断の属人性をなくし、結果をデータとして共有できる体制を作ることで、セキュリティを「維持・進化させるしくみ」へと昇華させています。
より詳細な内容はこちらでご確認ください。
Webアプリケーション脆弱性検査ツール「VexCloud」の導入事例|貝印株式会社様
監修:増井さん
グローバル展開している場合、「技術の統一」だけでなく「運用ルールとエスカレーション経路の統一」が重要です。言語や法律、権限などが異なるため、ルールやフローを整備することで、グループ全体としての差を小さくして改善スピードを高められます。
続いて、デジタルマーケティングプラットフォームを運営するITベンチャー企業様の事例です。サービスは急成長する一方、セキュリティ対策が属人化しており、開発スピードを維持しながら効率的に強化する方法を模索していました。
課題
取り組み
成果
診断を特別な作業ではなく、開発の一部として自然に組み込んだことで、担当者一人ひとりがリスクを自ら見つけにいく意識へと変化しています。
より詳細な内容はこちらでご確認ください。
監修:増井さん
開発チーム主体で診断を回す際は「自動化」するだけでなく、発見後の運用ルールを明確にすることがポイントです。スキャンの合格基準を決める、脆弱性発見時の担当者や期限を決める、事例を共有して同じミスを防ぐ、といったルールを決めることで、診断結果を活かすことができれば開発プロセスの一部として定着させることができます。
2つの事例をご紹介しましたが、業種や規模が異なる企業でも、セキュリティ強化に成功している企業には明確な共通点があります。
それは、診断を単発イベントではなく「定常プロセス」として運用している点です。特別なときだけ行う作業ではなく、日常業務の一部として組み込むことで、以下のような効果を実現しています。
つまり、一時的な対応ではなく、組織全体に根付く「しくみ」として定着させることが、クラウド時代のセキュリティ強化の鍵となっているのです。
クラウド環境は常に変化します。新しい機能追加や構成変更のたびにセキュリティリスクが発生するため、一度きりの診断ではなく、継続的にリスクを見直し改善を積み重ねる運用が不可欠です。
では、具体的にどのように継続的な診断体制を構築すればよいのでしょうか。多くの企業が活用しているのが、自動診断と専門家サポートを組み合わせたクラウド型診断サービスです。こうしたサービスを利用することで、定期的な診断の実施とその結果に基づく改善活動を、無理なく継続できる体制を作ることができます。
ユービーセキュアが提供する「VexCloud」は、まさにこのような継続的改善を支援するクラウド型脆弱性診断サービスです。実際の診断フローや運用事例をもとに、クラウド環境を継続的に守るための具体的な手法を詳しく紹介しています。自社のセキュリティ対策を単発対応からしくみ化へと進化させたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。