近年、情報漏えいや不正アクセスによる被害は後を絶ちません。その原因は、設定ミスや誤操作、フィッシング詐欺、脆弱性の放置など多岐にわたります。
企業がサイバー攻撃から自社を守るためには、まずシステムのどこに“弱点”が潜んでいるのかを把握することが不可欠です。
この記事では、その第一歩である脆弱性診断の目的・種類・実施ステップを、実務担当者にもわかりやすく解説します。

この記事を監修した人

増井敏克

増井敏克

増井技術士事務所 代表

技術士(情報工学部門)、テクニカルエンジニア(ネットワーク、情報セキュリティ)、その他情報処理技術者試験にも多数合格。また、ビジネス数学検定1級に合格し、公益財団法人日本数学検定協会認定トレーナーとしても活動。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピュータを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発を行っている。著書に『IT用語図鑑』『図解まるわかり セキュリティのしくみ』『どうしてこうなった?セキュリティの笑えないミスとその対策51』『「技術書」の読書術』『実務で役立つ ログの教科書』など。

企業にとって「脆弱性診断」を実施すべき理由

サイバー攻撃の巧妙化・多様化により、企業の防御体制が問われる時代になりました。
以前は「大企業だけが狙われる」と思われていましたが、今では中小企業や自治体まで攻撃対象になっています。特に、クラウド化・テレワーク・API連携が進む中で、社内外のネットワーク境界が曖昧化してきています。

その結果、「見えないリスク」が潜む領域が急速に拡大しています。

  • 古いCMSを放置していたことで、改ざん被害が発生
  • 認証処理の設定ミスから個人情報が漏えい
  • APIのアクセス制御不備によって、外部からデータを取得された

このような事例は、どの企業にも起こりうるリスクです。
だからこそ、脆弱性診断は「対策の第一歩」として実施すべき基本施策になっています。

「脆弱性」とは?攻撃者に狙われる“弱点”の正体

脆弱性とは、システムやアプリケーションに存在するセキュリティ上の欠陥や設定ミスのことです。これは単なるプログラムのバグだけを指すのではなく、設計や構成の段階で生まれる防御のすき間を指します。

分類 内容 代表的な例
入力値検証の不備 外部入力のチェックが甘い SQLインジェクション、XSS
アクセス制御の欠陥 権限設定・認証ロジックの誤り 不適切な権限チェック、権限昇格
セッション管理の欠陥 セッションの生成・管理の不備 セッションハイジャック、セッション固定攻撃
ソフトウェア更新漏れ パッチ未適用、古いミドルウェア使用 CMSやライブラリの脆弱性
設定ミス サーバーやクラウドの公開範囲誤設定 S3バケット公開など
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監修:増井さん

脆弱性はバグも含めた幅広い原因で発生します。設計の甘さや権限設定ミス、運用手順の不備も脆弱性に該当します。一般的な利用者による通常の使用では動作上の不具合がなくても、攻撃者にとっては入り口になり得る構造が存在します。

 

認証まわりの処理や入力値チェックのように、標的になりやすい部分ほど優先してチェックしましょう。普段は問題なく動いている部分ほど見落とされやすいため、攻撃者の思考でシステムを眺めることが診断の第一歩です。

脆弱性診断の目的:リスクを見える化し、優先順位を付ける

脆弱性診断の最大の目的は、「どの部分が、どれだけ危険なのか」を数値とレポートで明確にすることです。
診断を通じて、発見→報告→修正→再検証のサイクルを回し、組織全体で改善文化を根付かせます。

目的 内容 成果イメージ
予防 攻撃前に弱点を特定・修正 リスク未然防止
検証 運用中システムの安全性を確認 防御力の見直し
改善 再診断で対策の有効性を検証 PDCAの定着
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監修:増井さん

診断の成果は「脆弱性を発見した件数」ではありません。
重要なのは、リスクをどれだけ減らせるか、そして早く修正して再発を防げるかという改善力です。
これを運用につなげるためには数値化が必要です。CVSSの値による優先度の設定、平均修復時間(MTTR)や修正完了率、再発率などによる診断後の対応スピードの測定が挙げられます。そして、その内容を報告書として社内でどう共有・反映できるかが、組織のセキュリティ成熟度を大きく左右します。

そもそも脆弱性診断のレベル感がわからないという人向けに、簡易的に診断できる無料診断をご用意しています。ぜひお試しください。

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診断の種類と対象範囲:自社に合った方法を選ぶ

脆弱性診断には複数の手法があります。
それぞれの診断の種類には特徴があり、目的や対象システムによって使い分けることで、効果的かつ効率的な対策が可能になります。

種類 主な対象 特徴
ネットワーク診断 サーバー・ルータ・OSなど 構成・ポート・通信経路を確認
Webアプリ診断 フォーム・管理画面・API SQLi、XSSなどWeb特有の攻撃を検出
ソースコード診断 開発中アプリのコード 実行前に潜在リスクを解析
クラウド診断 AWS・GCP・Azure構成 IAM設定・公開範囲の誤りを検出
モバイル/API診断 スマホアプリ・API連携 通信暗号化やトークン管理を確認

このように、一つの診断だけでは「見える範囲」に限界があるため、企業では複数診断を組み合わせるハイブリッド診断が主流になっています。

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監修:増井さん

なぜ併用が効果的なのか、ポイントとしては3つです。

  1. 見落としを減らす(自動診断で広範囲を調べ、手動診断で深掘りする)
  2. リスクの優先順位を付けやすい(結果を統合してリスクスコアを算出する)
  3. コスト効率がよい(段階的に投資してカバー範囲を広げる)

診断手法の組み合わせは資産の重要度や予算、開発体制などによって変わります。費用対効果を高めながら、より確実に守るための実践的なアプローチとして、どの組み合わせがいいかは専門のセキュリティコンサルタントにお気軽にご相談ください。

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実施ステップ:準備から報告・改善までの流れ

脆弱性診断は、以下のプロセスで実施します。

1.準備フェーズ

目的・範囲を明確化し、対象システムや環境の情報を整理。
診断ツールやアカウント情報、テスト環境の準備を行います。
テストの許可や影響範囲についての合意、障害発生時の対応手順を確認しておきます。

2.診断フェーズ

自動スキャンと手動検証を組み合わせ、異なる視点からリスクを検出。
再現性や影響度を考慮し、優先度を付けてレポート化します。
ログやスクリーンショットなど証跡を保存し、意図しないサービス停止に配慮します。

3. 改善フェーズ

報告書をもとに修正計画を立案。
重大な脆弱性から優先的に対応し、再診断(再スキャン)で有効性を確認するだけでなく修正の妥当性を確認します。

詳しい手順は以下の記事で実務ステップを詳しく紹介しています。
脆弱性診断のやり方|準備から改善まで、現場で使える実践ステップ(後日リンク)

ベンダー選定:信頼できる診断サービスを見つけるには

外部委託を検討する際は、「どの会社に頼めば安心なのか」「どんな基準で選べばよいのか」が判断に迷う方も多いと思います。
診断サービスは一見似ていても、技術対応力・改善提案の質・サポート体制の充実度などに差があります。そのため、単に価格や納期だけでなく、支援姿勢や対応範囲まで含めて見極めることが大切です。

こうした際に参考になるのが、国の公的機関であるIPA(情報処理推進機構)が公開している「情報セキュリティサービス基準適合サービスリスト」です。
このリストには、体制・実績・再現性などの基準を満たした信頼性の高い事業者が掲載されており、初めて脆弱性診断を依頼する企業にとっても安心の指標となります。

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監修:増井さん

診断ベンダーを選ぶ際は、「どんなツールを使っているか」だけでなく、「診断結果をどう活かしてくれるか」にも注目するのがポイントです。上記のリストに掲載されていればよいのではなく、過去のインシデント対応事例や脆弱性に対する再発防止支援、検査技術の違い、報告書のフォーマット、対応期限の合意など複数の視点で確認します。自動診断ツールは検出の網羅性に優れていますが、リスクの深刻度を正しく判断し、実行可能な改善策に落とし込むには経験も重要です。そのためサポート体制・期間なども事前にチェックしておきましょう。

継続診断の重要性:一度の診断で安心してはいけない理由

サイバー攻撃は日々進化し、昨日の安全が今日も通用するとは限りません。
一度診断して終わりではなく、一般的なシステムでは年1回以上の定期診断+改修後の再診断が推奨されます。金融機関などリスクの高いシステムではそれ以上の頻度での実施を検討します。

  • 攻撃者は常に新しい脆弱性を探索している
  • システム更新・機能追加時に新たなリスクが発生する
  • 法令や監査要件により、継続診断が義務化される場合もある
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監修:増井さん

脆弱性診断は単発のイベントではなく、企業の継続的防御サイクルの一部です。
攻撃手法が日々変化する以上、1年前の安全は今日の安全を保証しません。
また、システムの重要度や変更頻度、外部への公開有無などによってリスクは異なるため、実施する頻度は変わってきます。
いずれにしても、定期診断+リリース時の再確認を習慣にすることで、セキュリティ文化が定着していきます。

脆弱性診断は“守りの文化”を築く第一歩

脆弱性診断の本質は、「弱点を探すこと」ではなく、「組織が安全を維持する文化をつくること」です。
診断を継続し、改善を習慣化することで、セキュリティリスクを最小化できます。

  • システムの現状を“見える化”する
  • 優先順位を付けて効率的に対策する
  • 継続的な診断で、組織の信頼を高める
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監修:増井さん

セキュリティ対策は“完璧”を目指すものではなく、改善を継続する体制をつくることが最大の防御力です。企業の信頼は、一度の失敗よりも事案発生時の対応の早さと再発防止策の内容、誠実さによって守られます。
脆弱性診断を単発で終わらせず、運用や管理のプロセスとして定着させることこそ、長期的なブランド価値の基盤となります。