「脆弱性診断の見積もりを取ったが、金額の妥当性がわからない…」
「上司に費用の説明をしたいが、どう伝えれば納得してもらえるだろうか?」
初めて脆弱性診断を検討する担当者にとって、数万円から数百万円と幅のある見積費用から選ぶのは、頭の痛い問題です。業者選びや社内調整をスムーズに進めるためには、見積価格が提示されるまでのしくみを正しく理解し、自社の状況に合った「最善手」を見つけ出す必要があります。
本記事では、セキュリティ診断の初心者・中級者担当者様が、自信を持って予算計画を立て、最適な発注ができるようになることを目指し、以下の点を実務担当者の視点で徹底的に解説します。
この記事でわかること
- 予算別のおすすめ診断プラン
- 見積もり書の正しい読み解き方
- 品質を落とさずコストを抑える賢いコツ
- 診断会社の選び方
この記事を監修した人

増井敏克
増井技術士事務所 代表
技術士(情報工学部門)、テクニカルエンジニア(ネットワーク、情報セキュリティ)、その他情報処理技術者試験にも多数合格。また、ビジネス数学検定1級に合格し、公益財団法人日本数学検定協会認定トレーナーとしても活動。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピュータを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発を行っている。著書に『IT用語図鑑』『図解まるわかり セキュリティのしくみ』『どうしてこうなった?セキュリティの笑えないミスとその対策51』『「技術書」の読書術』『実務で役立つ ログの教科書』など。
なぜ診断に費用をかけるのか?未来の損害を防ぐ「保険」という考え方
脆弱性診断とは、専門家が攻撃者の視点でシステムを評価し、セキュリティ上の弱点(脆弱性)を発見する、いわば「システムの人間ドック」です。脆弱性を放置すれば、ある日突然、情報漏えいやサービス停止といった致命的なインシデントに見舞われる可能性があります。
脆弱性診断 vs ペネトレーションテスト:目的の違い
よく混同されるペネトレーションテストは「特定の目的(重要情報の奪取など)を達成できるか」を試す実践訓練です。一方、脆弱性診断は「どのような弱点があるか」を網羅的に洗い出す健康診断です。
両者は対立する概念ではなく、むしろ補完関係にあります。多くの企業では、まず脆弱性診断で自社の弱点を網羅的に把握し、その後、特に重要なシステムに対してペネトレーションテストを実施するという段階的なアプローチを取っています。予算や目的、システムの重要度に応じて、どちらか一方を選ぶ、あるいは両方を組み合わせることも可能です。
【図表1】脆弱性診断 vs ペネトレーションテスト 比較表
| 項目 | 脆弱性診断 | ペネトレーションテスト |
|---|---|---|
| 目的 | 脆弱性を網羅的に洗い出す | システムに侵入を試み、攻撃シナリオを実証する |
| アプローチ | 既知のパターンで体系的にスキャン | 攻撃者視点で攻撃シナリオを試行 |
| 成果物 | 脆弱性の一覧と対策案 | 侵入可否と攻撃経路の報告 |
| 費用感 | 比較的安価〜中程度 | 高額になる傾向 |
診断費用は「コスト」ではなく「投資」
脆弱性診断の費用は、将来発生しうる大規模な損害を防ぐための「戦略的投資」と捉えると説明しやすくなります。情報処理推進機構(IPA)の調査によれば、サイバーインシデントが発生した企業の被害額は平均73万円ですが、最大1億円に達したケースもあります。また、日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)の調査では、ランサムウェア被害の平均額は2,386万円、情報漏えい被害は約3,000万円と報告されています。
仮に診断費用が100万円だったとしても、数千万円、数億円規模の損害を防げるのであれば、それは非常に費用対効果の高い投資といえます。問題が起きてから事後対応に追われるのに比べ、事前に弱点を塞いでおく方が、結果的にトータルのコストをはるかに低く抑えられる可能性があります。
※参考:
情報処理推進機構(IPA), 「2024年度中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」
日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA), 「インシデント損害額調査レポート 別紙「被害組織調査」
【ケース別】自社の場合、診断費用はいくら?企業規模・システム別の費用目安
費用は診断内容によって大きく変動しますが、ここでは企業規模やシステムの特性に応じた費用感の目安を、想定される診断パターンとしてご紹介します。
脆弱性診断の種類別 費用相場一覧表
| 診断の種類 | 費用相場の目安 | 主な診断対象 | こんな企業におすすめ |
|---|---|---|---|
| Webアプリケーション診断 (ツール) |
月額数万円〜 | Webサイト、 Webサービス |
定期的に簡易チェックをしたい企業、開発初期段階の企業 |
| Webアプリケーション診断 (手動) |
50万円〜300万円 | ログイン機能、 決済機能など |
個人情報や決済情報を扱う企業、サービスの信頼性が重要な企業 |
| プラットフォーム診断 | 1IPあたり 5万円〜20万円 |
サーバー、 ネットワーク機器 |
オンプレミス環境でサーバーを運用している企業 |
| スマートフォンアプリ診断 | 50万円〜300万円 (1OSあたり) |
iOS/Androidアプリ | 自社でスマートフォンアプリを提供している企業 |
ケース1:中小企業のコーポレートサイト
- 費用目安:30万円~80万円
- 主な診断対象:お問い合わせフォーム、CMS(WordPressなど)
- ポイント:まずは手動診断で基本的な脆弱性の有無を確認する「Webアプリケーション診断」が一般的です。リスクの高い個人情報を扱わない場合は、ツール診断でコストを抑える選択肢もあります。
ケース2:ECサイト・会員制サイト
- 費用目安:80万円~200万円
- 主な診断対象:ログイン機能、会員情報管理機能、決済連携機能、商品検索機能
- ポイント:個人情報や決済情報を扱うため、専門家による手動診断が必須です。広範囲をツールで、重要機能を専門家が手動で診断する「ハイブリッド診断」がコストと品質のバランスに優れています。
ケース3:SaaS・FinTechサービス
- 費用目安:200万円~500万円
- 主な診断対象:サービス全体の機能、API、マルチテナント機能
- ポイント:サービスの信頼性が事業の根幹をなすため、より網羅的で深い診断が求められます。Webアプリケーション診断に加え、サーバーやネットワークも対象とする「プラットフォーム診断」をセットで実施することが推奨されます。
ケース4:大企業の複数システム
- 費用目安:500万円~数千万円(年間)
- 主な診断対象:基幹システム、グループ会社全体のWebサイト、海外拠点システムなど
- ポイント:年間を通じて計画的に診断を実施します。複数のシステムを対象に、脆弱性診断、プラットフォーム診断、ペネトレーションテストなどを組み合わせた包括的なセキュリティ評価が行われます。
※費用は診断会社や診断内容によって大きく異なります。あくまで参考値としてご覧ください
見積もりを読み解く!脆弱性診断の費用を左右する6つのポイント
なぜ同じWebアプリケーション診断でも、50万円で済む場合と300万円かかる場合があるのでしょうか。それは、見積金額が以下の6つの要素の組み合わせで決まるからです。このしくみを理解すれば、見積書の内容を正しく評価でき、価格交渉の際にも役立ちます。
1. 【最重要】診断対象の範囲(スコープ)
最も費用に影響するのが診断対象の規模です。規模が大きくなるほど、診断に必要な工数(時間と人手)が増えるため、価格は高くなります
- Webアプリケーションの場合:ページ数、動的/静的ページの割合、ログイン機能や決済機能といった複雑な機能の数
- プラットフォームの場合:診断対象となるIPアドレスの数
2. 診断の「深さ」(ツール vs. 手動)
診断方法には、機械的にチェックする「ツール診断」と、専門家が手作業でチェックする「手動診断」があります。
- ツール診断:既知の典型的な脆弱性を、広範囲にわたって高速に洗い出すのが得意です。開発の初期段階で全体を網羅的にチェックする場合や、定期的なスキャンに有効ですが、複雑なビジネスロジックの欠陥は見逃す可能性があります。
- 手動診断:専門家がシステムの仕様やビジネスロジックを深く理解し、ツールでは発見できない高度な脆弱性や設定ミスを炙り出します。ログイン機能や決済機能といったシステムの根幹に関わる部分の診断には不可欠ですが、その分コストと時間はかかります。
現在主流となっているのは、両者の長所を組み合わせた「ハイブリッド診断」です。広範囲をツールで効率的にチェックし、リスクの高い重要箇所は専門家が手動で深く掘り下げることで、コストと品質の最適なバランスを実現します。
3. 診断員の「腕前」(スキル)
診断を担当する技術者のスキルレベルも価格に影響します。OSCP(Offensive Security Certified Professional)やOSWE(Offensive Security Web Expert)といった高度な資格を保有する技術者が担当する場合や、経験豊富なシニアレベルの診断員が対応する場合、その高い専門性から費用は高額になる傾向があります。しかし、他社では見つけられないような難易度の高い脆弱性を発見できる可能性も高まります。
4. 診断の「網羅性」(項目)
どのような脆弱性を検査対象とするかによっても費用は変わります。多くの診断は、セキュリティの世界的な指標である「OWASP Top 10」や「OWASP ASVS(アプリケーションセキュリティ検証標準)」を参考に診断項目を設計しています。ただし、OWASP Top 10は主に意識向上を目的としたドキュメントであり、網羅的な診断基準ではありません。そのため、各診断会社は独自の診断項目やチェックリストを持っており、OWASP Top 10に加えて、PCIDSS、業界標準、独自の研究成果などを組み合わせた診断を提供しています。どのような項目が診断対象となるかは、見積もり時に確認することをおすすめします。
5. 診断の「スピード」(期間)
診断にかかる期間も要素の一つです。通常、診断には数週間から1カ月程度の期間が必要ですが、「急いで診断してほしい」といった短納期(特急対応)を希望する場合、追加料金が発生することがあります。
6. 診断後の「手厚さ」(サポート)
診断の成果物である報告書の品質や、付帯サービスの内容も価格に含まれます。
- 報告書の品質:単に脆弱性を羅列するだけでなく、具体的な再現手順や修正コードのサンプルまで記載された詳細な報告書は、作成に工数がかかるため高価になります。
- 付帯サービス:診断結果を解説する「報告会」の実施や、脆弱性を修正した後に正しく直っているかを確認する「再診断」の有無も価格に影響します。
監修:増井さん
見積もりを依頼するときには、その依頼範囲を明確にすることも重要です。ページ数や環境についての情報が曖昧な場合、その部分について余裕を持って見積もりが作成されるため、費用が想定より高くなることが考えられます。
品質を落とさずコスト削減!脆弱性診断の費用を抑える3つの賢いコツ
「品質は落としたくない、でも費用はできるだけ抑えたい」というのが担当者の本音でしょう。ここでは、診断の品質を維持しつつ、コストを賢く削減するための具体的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:診断対象を「選択と集中」する
最も効果的なのが、診断対象の範囲(スコープ)を戦略的に絞り込むことです。やみくもに全機能を対象にするのではなく、「個人情報や決済情報を扱う機能」「外部からファイルをアップロードできる機能」など、事業インパクトが大きく、攻撃されやすい機能に「選択と集中」しましょう。これだけで、見積もり額を半分以下に抑えられるケースも珍しくありません。
ステップ2:診断ツールを併用する
広範囲を安価なツールで自動診断し、リスクの高い重要機能のみを専門家が手動で診断する「ハイブリッド診断」は、コストパフォーマンスに優れた手法です。このような診断方式を提供している診断会社もあるので、見積もり時に確認してみましょう。
- 開発段階:開発者がコードを書いている段階で、SaaS型の自動診断ツールを導入します。これにより、基本的な脆弱性を早期に発見・修正でき、後の手戻りを防ぎます。
- リリース前:サービスのリリース前や、年に一度の定期診断として、専門家による手動診断を実施します。この時、ツールによって基本的な脆弱性は潰されているため、専門家はより高度で複雑な脆弱性の発見に集中でき、結果として手動診断の工数が減り、費用を抑えることにつながります。
このように役割分担をすることで、継続的なセキュリティチェックと、高品質な診断を両立させることができます。
ステップ3:複数の会社から相見積もりを取る
これは基本ですが、必ず複数の診断会社から見積もり(相見積もり)を取得し、比較検討しましょう。1社だけの見積もりでは、その価格が適正なのか、サービス内容が自社の要求に合っているのかを客観的に判断できません。
2〜3社から見積もりを取ることで、おおよその相場観を掴むことができ、価格交渉の材料にもなります。
監修:増井さん
見積もりを依頼するときに、過去の見積もりを参考にする担当者がいます。しかし、攻撃の手法やトレンドは時代によって変わっており、それによって脆弱性診断の手法や使うツールなども変わります。このため、過去の診断費用などが参考にならないことは珍しくありません。
脆弱性診断の費用に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 脆弱性診断はどのくらいの頻度で実施すべきですか?
A. 最低でも年1回の実施を推奨します。また、個人情報を扱う機能の追加など、重要なシステム変更を行った際や、新規サービスをリリースする際は、その都度実施することが望ましいです。継続的な対策として、定期的なツール診断と年1回の手動診断を組み合わせる企業も増えています。
Q2. 診断結果の報告書はどのような内容ですか?
A. 報告書は、専門家でなくても理解できる「エグゼクティブサマリー(概要)」と、開発者向けの「技術的な詳細」の2部構成になっているのが一般的です。主に以下の内容が記載されています。
- 発見された脆弱性の一覧:どのような弱点が見つかったかがリストアップされます。
- 危険度評価:各脆弱性がどれくらい危険か、「高・中・低」などでランク付けされます。
- 再現手順:どのようにすればその弱点を攻撃できるか、具体的な手順が示されます。
- 推奨される対策:どのように修正すればよいか、具体的な対策方法が提案されます。
良い報告書は、専門家でなくてもリスクを理解でき、開発者がすぐに行動に移せるよう工夫されています。
Q3. 診断にはどれくらいの期間がかかりますか?
A. 対象規模によりますが、一般的に2週間〜1.5カ月程度です。小規模なWebサイトであれば1〜2週間、大規模なシステムや複数サイトの診断では1カ月以上かかることもあります。
Q4. クラウド環境(AWS/Azure)でも診断できますか?
A. はい、もちろん可能です。多くの診断会社はAWSやAzure、GCPといった主要なクラウド環境に対応した診断サービスを提供しています。ただし、クラウド環境の診断には特有の知識が必要となるため、クラウドの診断実績が豊富な会社を選ぶことが重要です。
まとめ
脆弱性診断は、サイバー攻撃から自社のビジネスと顧客を守るために不可欠な「戦略的投資」です。費用は診断対象や手法によって変動しますが、価格決定の要素を理解すれば、自社に最適なプランを選択できます。
- 費用相場:手動でのWebアプリ診断は50万円~が目安。
- 費用決定要素:対象規模、診断方法、スキル、項目、期間、報告書。
- コスト削減のコツ:対象の絞り込み、ツール併用、相見積もり。
- 会社選び:価格だけでなく、実績やサポート体制を総合的に評価する。
本記事で得た知識を活用し、自社に最適な脆弱性診断を計画・実行することで、安全で信頼性の高いサービスを提供し続けていきましょう。
「自社のケースではいくらかかるか、まずは概算を知りたい」という方は、ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。
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